少し前の記事になるけど、『モノがあふれる現代社会 物欲そのものが減退(産経新聞) – Yahoo!ニュース』について
ライブドアの堀江貴文元社長(36)は「金があれば何でも買える」といいながら、インタビューに「もう物欲はない」と話した。確かにモノがあふれる現代社会で、物欲そのものが減退してきているのではないかと思わせるデータがある。
リサーチ会社「日経BPコンサルティング」が今年4月に行った調査では、「モノやサービスを買おうという意欲が低下した」と答えた消費者は約4割を占めた。その理由として「収入が減ったから」よりも「生活に必要なモノが一通りそろったから」と答えた消費者の方が多かったという。
モノがあふれる今の時代において、ただ商品を並べるだけではお客さまは買ってくない。これはもう10年以上も前から言われていることでもある。
そんな今でも商品がバカ売れし、多くのお客を集めている企業も数多くある。お客を集める理由とはなんだろうか。
「ニーズ」と「ウォンツ」、「シーズ」とは
自分のための復習もかねて、「ニーズ」と「ウォンツ」、「シーズ」という用語について書いておく。
「ニーズ」と「ウォンツ」というマーケティング用語を定義したのは、アメリカの経済学者のフィリップ・コトラー。
「ニーズ」とは、生活するために必要だが不足しているものを求める欲求。ただ、どのような商品やサービスでその欲求を満たすことができるのか、よくわかっていない状態。
「おなかがすいたから何か食べたい」とか、
「のどが乾いたから何か飲みたい」という欲求がニーズ。
「ウォンツ」とは、生活するために必要な欲求が、具体的なものとなって現れている状態。
「おなかすいたし、美味しいもの食べたいから、今夜は叙々苑の焼肉が食べたい」とか、
「のどが乾いた。今夜は蒸し暑いし、キンキンに冷えたビールが飲みたい」などというのがウォンツ。
また、「シーズ」とは、『ビジネスの「種」のこと。企業がもつ「技術、ノウハウ、アイデア、人材、設備」など。』とある。(Weblioの『シーズとは』より)
メーカーであれば、原材料や製造方法などであり、店舗であれば立地や内装、スタッフの調理技術や接客技術などのこととなる。
「ただ、良いモノを並べていれば売れる」というのは昔話
先の記事内にある、購買意欲が低下した理由として、
「収入が減ったから」よりも「生活に必要なモノが一通りそろったから」と答えた消費者の方が多かった
というのがあるが、これは以前から言われていること。
テレビや冷蔵庫、洗濯機、エアコン、自動車、マイホーム……
昔は、人々の欲求がモノとして現れていることがほとんどであり、それらのモノを手に入れることで欲求が満たされていた。
しかし、今ではそれらのモノが自分の手元にあるのがあたり前になった。
同じ記事内にある、
孫2人をつれて訪れた堺市の主婦(67)は「昔はおめかしして家族みんなで出かけて、百貨店の買い物袋を下げて帰るのが誇らしかった。今は、百貨店に行っても眺めるだけ。何でも買える場所から何も買いたくない場所に変わってしまった」と話した。
というのは正直な感想だろう。
昔はあれほど欲しがっていたモノだけど、一通り手に入れるとちょっと良くなっただけでは新しくしてまで欲しくならない。まして、足を運べば、店員が「買え、買え!」と近づいてくるのでわずらわしく感じることさえある。
ただ良いモノを並べるだけでは、誰も見向きもしなくなった。
「雰囲気」を演出する
では、どのようにしてお客を集め、製品やサービスを販売するか。
一つは、お店の「雰囲気づくり」にある。
良い商品を揃えることはもちろん、お店の立地や内装に統一感を持たせて演出する。
例えば、居酒屋を作る時、仲間とにぎやかに話しながら食事を楽しんでもらいたいなら、新宿や渋谷など人が多く集まる街にお店を構え、開放感を持たせて、照明も明るくし、店員も活気良く元気に接客する、などのようにする。
少人数でゆっくりと食事を楽しみたいなら、青山や銀座などで個室/半個室を用意し、少し暗めの落ち着いた照明にし、スタッフも会話をジャマしないさりげない接客をする、などということが考えられる。
お店のコンセプト、ターゲットとする客層に合わせて、立地や内装を整えることが一つの方法である。
あなたが男性だとして、彼女にブランド物のバッグをプレゼントとして贈る場合、量販店で定価より安く買ってあげるよりも、直営店に足を運び、接客を受けながら選んで買って贈る方がはるかに喜んでもらえる。
これは、彼女が「ただ、ブランド物のバッグをもらう」ということを求めているのではなく、「直営店で接客を受けながら、欲しいバッグを手に入れる」という雰囲気を味わうことも欲求に含まれているからなのです。
人が集まる「場」をつくる
だが、誰もが人の集まる街に豪華なお店を持ちたいと考えながらも、資金面などで諦めざるを得ないことが多くある。
しかし、お金がなくてもできる実現できる方法がある。いや、むしろ、こちらの方が重要である。それは「コミュニケーション」の欲求を満たす「場」を提供すること。
「美味しいビールが飲みたい」と思った時に、普通の店員さんと「ビールマイスター」という資格を持っている人の2人がいた場合、どちらに注いで欲しいだろうか。
この場合、ほとんどの人が「ビールマイスター」の資格を持っている人に注いで欲しいと思うだろう。
同じ「ビール」を注ぐだけなのに、資格のあり・なしで選ばれる基準が変わるとなれば、資格取得者を増やして演出する方がよい。このように立地や設備でなく、人材などを活かす方法もある。
それ以外にも、お酒を飲みたくなったとき、ハードバーに行くか、ホテルのバーに行くか、仲間がやっていて気楽に飲めるバーに行くか、一人一人の気分や求める物によって異なる。
すべての人の欲求を満たすのはとても難しい。しかし、ターゲットを絞り、そのターゲットとなるお客さまに適したサービスを提供すると、欲求を満たしやすくなる。
小売店や飲食店は、取り扱っている商品やサービス内容において、表面的な差がわかりづらい。そのため、お店の理念や方針、コンセプトに合わせ、ターゲットを絞り、そのお客さまに向けたサービスを提供する。お客さまが集まり、満足する「場」を作ることが重要となる。
少し異なるかもしれないが、「東京ガールズコレクション」などのファッションショーや、野外音楽フェスティバルも「場」を作る、というの点では集客力も高く、よい例として参考になる部分も多い。
人々の欲求はなくならない
「消費者の物欲が減退している」と言われるが、私たちの欲求がなくなることはない。
おなかがすけば何か食べたくなるし、のどが渇けば水を飲みたくなり、夜はぐっすり眠りたい。そして、毎日の生活費に困ることなく、いい家で安心して暮らしたい。このように思っている人が多いだろう。
そしてできることなら気の合う仲間を多く作り、愛する家族を持ち、多くの人に認められ、自分のやりたいことに打ち込んで生きたい、という人もいるだろう。
欲求に程度の差こそあるが、その欲求がつきることはなく、欲求が満たされ続ける限り、さらなる欲求が出てくる。
今はモノにあふれ、食べる物がないとか、安心して住める家がないとか、生活が脅かされることはほぼない。そうなっている今、求められている欲求は「人とのコミュニケーション」がメインとなっている。
気の合う仲間、信頼できる人、大切な家族と過ごす「場」を提供してくれる製品やサービスが求められている。
「高級な牛肉」というだけでなく、「家族みんなで楽しむすき焼き用牛肉」としたらどうだろう。
「ピーチフィズ」が、「初めてのデートで飲んだ思い出のカクテル」だったら、どうなるだろう。
見た目は同じ製品やサービスでも、提供の仕方によって、いくらでもお客さまの欲求を掘り起こし、満たすことができるようになる。
人々の欲求は限りない。私たちに必要なのは単にモノを並べるのではなく、お客さまの欲求を掘り起こし、イメージさせるための「場」を作り、人を集めることだ。