「マンガの編集者の仕事とは?」 – 劇的3時間SHOW 弘兼憲史さんレポート その2

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「劇的3時間SHOW」の弘兼憲史さんの回のつづき。

雑誌『モーニング』の編集長・古川公平さんと、ビッグコミックオリジナル編集長・吉野彰浩さんを交えて、「マンガ編集者の仕事」について語られました。

「マンガは共同作業」

マンガの編集者は「漫画家と二人三脚で考え、作っていくもの」とのことで、具体的には以下のような仕事をしているそうです。

  • ストーリーを考える
  • アイデアを練る
  • 作家のモチベーションをアップさせる
  • 作家に〆切をまもらせる
  • 取材の手配、チケットの予約などをする
  • 資料を収集し、まとめる
  • 原稿を校正する
  • 新人を発掘する など

また、編集者は「『新しい連載をヒットさせたい』という野望を持っている」(吉野)とのこと。ヒット作を生み出した編集者の中には会社を辞めて、フリーの編集者になる人も増えてきたとのこと。

フリーで活躍されている方として、「20世紀少年」などを書いている浦沢直樹さんの担当をしていた長崎尚志さん、現在モーニングで連載されている「神の雫」の原作を担当している樹林伸さん(原作名は亜樹直)が有名です。

編集者は「一番最初に読む読者」

編集者の大事な仕事の一つとして「一番最初に読む読者である」ということが挙げられました。

古川「編集者とは、ネーム(マンガの下書き状態のもの)を一番最初に読む読者である。したがって、自分の後ろにいる何万人もの読者のことを考えなければならない。」

雑誌を読んでくれる何万、何十万もの読者に喜んでもらえるかどうかが、編集者の仕事して掛かっています。

弘兼さんは漫画家の立場から、担当者の反応について話されています。

弘兼「一番最初に見せる編集者を感動させる。納得させる。」

弘兼「ちばてつや先生は、ネームを読む時の表情を見ている。どこのコマで笑ったか、どこのシーンで表情が変わったかをチェックされているそうだ。」

古川さんは、ちばてつや先生を担当されていた時の苦労話を話されました。

古川「『面白い』と言ってもらってくるのが一番簡単。でも(相手がちばてつや先生であっても)、何か言わないといけない。そこで、何を言ったらいいか毎回必至に考えていた。担当してから体重が5kg減った。」

弘兼さんが「ちば先生は漫画家の中でも1、2を争うくらい優しい先生」と仰られているとはいえ、大御所を前にして口出しするのは相当な苦労があることがわかります。

「黄昏流星群」は講談社のマンガで連載されるハズだった!?

吉野さんのエピソードとして、

吉野「弘兼さんの担当となり、『よし、これからヒット作を生み出していくぞ!』と意気込んでいた所に、当時連載していた『人間交差点』を「辞める」と言われた」

ということを語られたのに対し、

弘兼「連載が10年過ぎるとマンネリが起こる。『人間交差点』はちょうど10年だった。『課長島耕作』も10年くらいで『部長』になっている。」

とフォローされていました。

しかし、そこには後日談が。

弘兼「吉野さんは「人間交差点」の「お疲れ旅行」として、スイスのマッターホルンに旅行に行ったんだけど、そこは漫画家と編集者だから、タダでは起きない。というか、現地で写真を撮影しまくり、その資料を『黄昏流星群』の第1回目に使った。」

ここで、もう一つエピソードが飛び出します。

弘兼「実は『黄昏流星群』は最初、講談社に持ち込んだの。でも「中年の恋愛」というの内容で断られて、次に小学館に持っていって連載が始まった。」

吉野「じゃあ、うちは2番手だったんですか?」

弘兼「でも『加治隆介の議』という政治マンガの時は小学館に断られて、講談社に持っていって連載が始まった。」

他のマンガでも同じようなことが起こっているのかもしれません。

マンガの編集者は13時出社

出版社の編集者というと、仕事が大変なイメージがありますが、マンガの編集者というのもまた変わった勤務時間になっているそうです。

吉野「マンガの編集者は、13時出社。編集会議を経て、16時からそれぞれの仕事へ。なぜなら、漫画家に夜型の人が多いから。編集部には、24時が一番人が多いことも多い。」

マンガの編集者は漫画家に一日中つきあうことになり、生活が不規則になるので、家庭が崩壊しがちとのこと。

編集者の家庭でのエピソードとして、以下のようなものが語られていました。

  • こどもに「パパ、次はいつくるの?」と言われた。
  • 出勤するときに、こどもから「また、来週」と言われた。
  • 奥さんが外出する時に、隣で寝ているダンナを踏みつけていった。
  • 新婚の奥さんが、担当漫画家に泊まり込みになっていた所へ「ウチの亭主を返して」と電話した。

マンガの編集者というのは相当大変な仕事なのですね……

講談社は漫画家と関係を深めやすく、小学館は風通しがいい

講談社(モーニング)と、小学館(ビッグコミックオリジナル)とでは、マンガ制作の体制も大きく違うそうです。

モーニング編集部 40数人(その他、契約プロダクション4社)
ビッグコミックオリジナル 8人(ただ、コミックスは別部署)

講談社は縦割り型。マンガ編集部内での異動は少なく、漫画家と編集者の密な関係がとれる。小学館は風通しがいい。マンガ編集部内での異動は多い。

講談社内では小学館を見て「もっと人数減らせるんじゃないか?」(古川)と言われ、小学館内では講談社を見て「なぜ、うちは人がいないんだ?」(吉野)と言われるとのこと。

弘兼さんは自分でネームもしっかり作られるので、新人教育によく使われる。副編集長と新人の組み合わせが多い。

雑誌を読むだけではわからない、編集部の内部がここまで違うのも驚きでした。

手塚治虫先生は編集者を値踏みしていた?

「マンガの神様」手塚治虫先生。手塚先生が編集者にネームを見せる段階で、実は編集者を値踏みしていた!? という話が語られます。

「手塚先生は、A、B、C の3パターンのネームを編集者に見せて『どれが面白いか?』と訪ね、選ぶネームによって編集者を値踏みしていた、という話がある。」

「マンガの神様」である手塚先生が書かれたネームなので、どれかに正解があると思ってしまうのが普通の心情。しかし、ここで驚くべきエピソードがまた語られます。

「その3パターンの出されたある編集者が『どれも面白くない』と言った所、手塚先生は奥の部屋に行き、Dというまったく違うネームが出てきた。それが正解だった。」

「どれも面白くない」という勇気ある発言ができる、ということだけでも凄いことです。

壇上でも『誰、その編集者って?』という話になり、『長崎(尚志・浦沢直樹のブレーン、のことか?)』と名前が挙がると、笑いが起こりました。
「それではホントかウソかわからないな」ということなのでしょう。

本当かどうかはわかりませんが、編集者の仕事の大変さを感じられる話です。

次回は「マンガの編集者になるには」ということについて

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