『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』を読みました

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伊藤Pのモヤモヤ仕事術

テレビ東京の人気バラエティ番組「モヤモヤさまぁ〜ず2」、
「やりすぎコージー」などを手がけるプロデューサー
“伊藤P”ことテレビ東京の伊藤隆行プロデューサーが書かれた本。

民放の中で視聴率万年最下位、制作費も他局の10分の1、
ヒットさせた企画はすぐ他局にパクられる…
という非常に厳しい制作環境ながら、
とてもディープなファンとなる視聴者を多くの生み出す秘訣を
惜しみなく書いています。

「積極視聴」してくれるファンを増やすテレビ東京

テレビ東京の番組は、他の民放各局の番組と比べて、
一風変わったものが多くあります。

さまぁ〜ずがただ散歩する「モヤモヤさまぁ〜ず」をはじめ、
大食い選手権などでおなじみの「TVチャンピオン」、
一般家庭にある価値のありそうなものを鑑定する「なんでも鑑定団」、
芸能人が突然いなかの家に泊めてもらう「田舎に泊まろう!」など。

他局ならば人気のタレント、芸能人を呼んで盛り上げることができず、
制作費もないため、頭を使って作るしかありません。

その分、人気になる番組には濃いファンが付きます。
そして、後を追って、他局で似たような番組が作られます。

伊藤Pは以下のように書いています。

 明確に視聴率で勝っていなくても、勝ったなという時はあるんです。たとえば他局はン千万円の制作費を使って視聴率が一〇%だったのに、テレ東の裏番組は何百万円の制作費で八%の視聴率という場合。表に出た数字だけを追えばテレ東の敗北ですが、費用対効果では明らかに勝っている。勝者からみれば、たまったもんじゃない。

 テレ東の基本になっているのは、ちゃんと愛してくれる視聴者に向かって、きちっとした番組を流して、「面白い」と言われるというスタンス。それを実現するのは、制作費でも、ネット局の多さでも、局の歴史でもありません。アイディアさえあれば、できることなんです。
だから、テレ東は、少なくとも積極視聴を狙う局でなければいけません。テレビの見方には自主的にチャンネルをあわせて番組を食い入るように見る積極視聴と、なんとなくテレビをつけてはいるが、あまり番組を見ていない消極視聴の二種類がありますが、後者では熱心なファンがつきませんから。

これは、ウェブ媒体・ウェブコンテンツにも通じるものがあります。

ウェブ媒体はテレビなどのマスメディアに比べて、
短期間で伝わる人数という面での影響力があまり強くありません。

一方で、ユーザーが自らアクセスして閲覧する点において、
積極性という面での効果が得やすい媒体です。

テレビ東京の番組制作の考え方は、
ウェブコンテンツの制作にも活かせる所が多くありそうです。

企画の核は一つ

多くの濃いファンを作る番組の企画はどうやって作られるのか。
伊藤Pは、企画の作り方も惜しみなく紹介しています。

「企画書を書く時、最初に何を考えるんですか?」と聞かれることがあります。
僕の場合、非常にシンプルです。まず最初は「これを見てみたい」と思うタイトルや一枚の画しか浮かびません。

僕は必ず、そういう企画の一番の核になる部分を一個決めておきます。極端に言えば、その時点で企画自体は完成するのです。

 企画書で伝えたいことなんて、究極的には一行一五文字ぐらいで収まります。結局それじゃ足りないので言葉を足して説明していくわけですが、軸がいくつもあると主張したいことがぶれてくる。中心に核が一個あって、楽しめるポイントがたくさん派生するのが基本だと思います。

 核を一個だけ決めておくと、プレゼンやものを伝える時、「ここが重要です」とはずせない本質から喋るようになって、相手にもよく伝わります。また全部が核に返ってくるように考えた方が、答えに近づくのではないでしょうか。「絶対これ!」と言い切っていれば、間違えていた時、早く失敗に気づきますし。

本の中では実際に伊藤Pが手がけた「モヤモヤさまぁ〜ず」や「怒りオヤジ」など、
実際に企画に携わられた番組の企画の作り方について、より詳しく書かれています。

伊藤Pの企画の作り方を読んでから番組を見直してみると、
「ブレない」ということを改めて強く感じます。

「モヤモヤさまぁ〜ず」も深夜の時間帯からゴールデンタイムに移り、
最初は内外から失敗するのでは…と不安になる人が多かったのですが、
不安もなんのその、人気バラエティ番組としてより多くのファンを増やしています。

また、伊藤Pはこのような新企画について書かれていました。

 (「くだらない」と言われるためにやりきる)
たとえば、テレ東の看板であるゴルフ番組や旅番組を突然深夜に放送してみる。ゴールデンタイムに『いい旅夢気分』があるなら、『いい旅ヤな気分』があってもいい。見終わった後、めちゃくちゃイヤな気分になる番組。これはどうしたって「くだらない」ですよね。
これ……
冗談ではなく、結構本気で考えています。

この企画の番組って、『そうだ旅(どっか)に行こう。』ですよね。
私、まんまと、伊藤Pの企画にハマっています。

伊藤Pは『人を動かす』 テレビ東京のデール・カーネギー

第四章では「サラリーマンとしての仕事術ーテクニック編」として、
伊藤Pの仕事におけるテクニックが紹介されています。

 テレビの現場で一番大事なこと。それは天才的な発想や、超人的な体力ではありません。人に気を遣えることです。

 僕が一番優秀だと思うスタッフは、「こう動いた方がいいだろうなー」ということを理解し、人知れず動けるヤツです。
気を配れることの根っこには、感謝があります。人に感謝できないスタッフは、他人のために動くことをしないので、必要以上のことをやらなくなるものです。

 会社の中で協力者を束ねて、「あいつのためなら、やってやろうじゃないか」と言ってもらうには、「こいついいヤツだな」と思ってもらう必要があります。そのためには本当に通したい意思を伝え、「ありがとう」も言えば頭も下げる。それをやらずして、もともとない関係値を築くことはできません。それができなくて文句を言っている人は、業界から足を洗った方がいい。だって僕達は、自分を守るんじゃなくて、番組を守らないといけないんですから。

これは、ビジネス書のロングセラーである、
デール・カーネギーの『人を動かす』の内容をまさに実践されているものです。

本の中にはより詳しく伊藤Pの仕事のやり方について書かれていますが、
このような上司が実際にいたら、尊敬して、上司のためにもがんばりたい、
と思えるような効果的な方法が紹介されています。

だからこそ、出演者、スタッフみんなで和気あいあいとした、
楽しい番組が作られているのでしょう。

多くの濃いファンを作る番組を作る秘訣を知りたい方、
弱者/最下位の戦い方、勝ち方を知りたい方、
過酷な仕事の現場で生き抜いていく術を知りたい方、
伊藤Pのモヤモヤした仕事術を読めば、きっとヒントが見つかりますよ。

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