「水曜どうでしょう」の『ミスター』こと、鈴井貴之氏の自伝的私小説。
鈴井さんの小学校時代から、鈴井さんが主宰していた劇団「OOPARTS」の立ち上げ、社長を務める「CREATIVE OFFICE CUE」が設立されるまでについて書かれています。
「水曜どうでしょう」の中で鈴井さんは幾度となく『ダメ人間』と呼ばれています。
「サイコロの旅」というサイコロを振って旅をする企画で幾度となく悪い目を出したり、「アメリカ大陸横断」という企画で、車移動の際にキーを差したままドアをロックしたり、ホテルのキーを部屋に忘れたまま外に出たり。ありえない展開やトラブルを起こし、その度に大泉洋さんやディレクターに『ダメ人間』と呼ばれていました。
とはいえ、実際は20人近くのタレントや社員を抱える会社の社長を務めながら、自身もタレントして活躍する他、放送作家、映画制作を行う、凄い人です。
鈴井さんは『ダメ人間』と呼ばれながらも凄い人。しかし、この本『ダメ人間』に書かれている昔の鈴井さんは、まぎれもない「ダメ人間」。
根拠もない自信をもとに、楽な方に逃げる日々。2度大学受験に失敗。かろうじて受かった大学もお酒と演劇に出会い、最終的には休学。仲間との確執。休学後の極貧の日々。
それでも周りの人に支えられながら演劇は続け、深夜テレビに出演することになり、ラジオのレギュラー番組を持つことに。
印象に残ったのは、以下のところ。
自分の舞台に於いても自己を表現したいということよりも、どういう演目ならお客さんに喜んでもらえるのだろうか、ということを考えるようになった。三〇を目前にして、やっと自分がやるべきことが見えかけたように思えた。([19]「レギュラー放送」より)
僕は自分でいろいろとやってきたつもりになっていたが、結局はいつも、誰かが助けてくれていた。僕は何もやってはいない。少し前の僕なら、それを認めたくはなかっただろう。でもそれが事実だ。その事実を受け入れると、少しだけ気持ちが楽になった。([20]「社長になってしまう」)
私自身、最近になって「自分は家族や友人、仕事相手など、周りの人に助けられている」と感じ、「自分がしたいことするのではなく、どうすれば相手に喜んでもらえるか」ということを考えられるようになってきた。でも、まだ足らない。
鈴井さんは、以下のように書かれています。
“根拠のない自信” を洗い流そうと思った。体にこびり付いた、”根拠のない自信” はそう簡単には落ちない。”謙虚” と “感謝” でゴシゴシやった。それでも落としきるのに、それからさらに一〇年以上の月日が必要だったように思う。
自分も “根拠のない自信” を持って、”楽な方” を選んで生きていたので、洗い流さなければならない。鈴井さんでさえ10年以上かかっているのだから、それくらいの時間がかかることは覚悟します。今、この本に出会うことができて良かったです。
この『ダメ人間』の初版発行日となっている、2009年9月9日に「OOPARTS」の活動再開が発表されました。
劇団ではない、新しいプロジェクトの「OOPARTS」がどのようなことをしてくれるのか注目です。
» 鈴井貴之 – Wikipedia
» Out Of Place ARTiSt:OOPARTS