「売れるマンガの公式とは?」 – 劇的3時間SHOW 弘兼憲史さんレポート その4

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「劇的3時間SHOW」弘兼憲史さんの回のつづき。
最後は弘兼さん、古川公平さん(モーニング編集長)、吉野彰浩(ビッグコミックオリジナル編集長)の3人が「売れるマンガの公式」について話されました。

「売れるマンガ」の公式

3人からそれぞれ、「売れるマンガ」の作り方について語られました。

吉野「学校で詰め込まれた物を取り払える人」
「願望」が含まれている(『釣りバカ日誌』など)
「遊び心」を忘れていない
「国語」の知識は必要

古川「『週刊少年ジャンプ』は『友情、努力、勝利』がテーマであり、売れる公式である。『モーニング』のテーマは『読むと元気になる』。ただ、『元気のなり方』は時代によって変わっているので、時代にあわせていく必要がある。」

吉野「味の濃い食堂の料理のようなマンガは必要である。一方で、幕の内弁当のように定番の料理も必要である。残るものと新しいものとをうまく入れ替えていかなければならない。」

古川「弘兼さんをはじめ、長く残っている人には共通点がある。最初は誰しもマネから入る。しかし残る人は向上心があり、オリジナリティを強く持っている。編集者が何といおうと『オレはこういうのが書きたい!』という気持ちを持っている。」

弘兼「マンガにおいてキャラクターは非常に重要。私は、キャラクターで勝負するのが50%。」

「今の新人漫画家の欠点として、小さい時からマンガを読み過ぎていて、キャラ設定の幅が狭い。もっと、小説や映画、実在の人物など、幅広い物に触れて設定すべき。」

「新連載を開始するまで、2年間は準備する。たとえば、ウイスキーをテーマにしたマンガにするなら1年半はウイスキーを飲む。」(『神の雫』の原作者・樹林伸さん(亜樹直さん)も、いつもワインを飲みまくっているとか)

キャラクターの基本的な作り方

  • 主人公は、読者が感情移入できる。正義を貫く。
  • ライバルは、強い個性を持たせる。外見的/内面的の両面で主人公と対照的にする。
  • 「島耕作」シリーズは、島耕作自身がキャラクターが薄いので、まわりのキャラクターに強い個性を持たせている。
  • お笑いコンビで考えるとわかりやすい(爆笑問題 など)

「少女マンガ」のヒットの法則は、(3人とも少女マンガの制作に携わったことがないそうだが)

  • 自己犠牲を持っている
  • 欠陥を持っていると愛される

先の予想がつかないものは、意外とダメ。
「最大の情報は読者に」(アルフレッド・ヒッチコックの言葉)

主人公の行く先に、殺し屋が待ち伏せしているシーンを描き、読者に「そっち行っちゃダメ!」とハラハラさせる。

読者を惹きつける要素の「黄金パターン」がある。
例えば「主人公が、実はケンカが強いのにあえてボコボコにやられているシーンを書き、いつ能力が覚醒するのか」というもの。

「黄金パターン」+「斬新なもの」が王道
たまに「ハズシ」を入れればなお良い。

漫画家、編集者のそれぞれの立場から、マンガを作る上での心構えや信念、ストーリー作りやキャラ設定、展開の王道パターンまで幅広く語られました。
特に印象に残ったのは、「先の予想がつかないものはダメ」、「『黄金パターン』(定番)に『斬新なもの』を加えるのが王道」という点。これはマンガだけでなく、あらゆるコンテンツ制作に応用できます。

週刊誌の連載は人間の能力を超えるもの

古川さんは『週刊誌の連載は人間の能力を超えるものである』として、週刊誌連載の大変さについて語られました。

古川「週刊誌の連載を持つというのは人間の能力を超えている。新人はほぼ1年か2年で1度身体を壊す。」

また、弘兼さんからは連載スケジュール、休日について、以下のように話されました。

弘兼「『島耕作』は3週連載し、1週休んでいるが、読者から『弘兼は休みすぎだ』と言われることもある。でも実際は、イブニングで「ヤング島耕作」を連載している。(苦笑)」

弘兼「休日は年末年始の数日。箱根駅伝のゴールを見届けたら仕事を始める。睡眠時間は1日4、5時間。

そこに、古川さんから驚きの一言が。

古川「しかも、弘兼さんが睡眠をまとめて4時間とか取っている所を見たことない。15分とか30分とかを合わせて4時間、とか。。。」

「まさかぁ…」という感じで、もし本当なら、まさに超人です。一部、誇張している部分はあるとは思いますが、大変な仕事量であることには変わりありません。

出版業界の今後について

第1部の最後に、「出版不況」と言われている今、今後の出版業界、マンガ業界はどうなっていくか、ということについて話されました。

  • 発行部数、売上は確かに減少している
  • しかし、古本、レンタルなどを含めて全体的に考えると読者は減っていない
  • 現に、今年の「コミケ(コミックマーケット)」にも50万人以上もの人が詰めかけた
  • 新刊以外で漫画を読む方法が増え、細分化が進んでいる
  • パソコンなどで読む電子書籍も増えている
  • コンビニでの立ち読み、漫画喫茶でのまとめ読みも増えている
  • パソコンで書いて、縮小して印刷する、という漫画家も増えた
  • 今後、紙のマンガがなくなることはないだろうが、パソコンで読むのに適したマンガを書く人は出てくるだろう。

最近、ケータイコミックや iPhone で読めるコミック、また今後 Kindle などの電子書籍端末の普及も進んでいきます。
今後、ウェブ上で活躍した後、紙でコミックを発行する漫画家というのも増えてくるかもしれません。

「アホらしい、ムダなことにも力を入れる」

休憩を挟んで第2部は「昔の歌謡曲の歌詞や映画にツッコミを入れよう」という企画で、アホらしいツッコミの数々に会場は盛り上がりました。
最後に弘兼さんは『アホらしい、ムダなことにも力を入れることも、コンテンツ制作の役に立つ、ということで』との言葉で締められました。
前半はアカデミックな「マンガの作り方」で、後半は「アホなことでもしっかり考える」という意味での発想の実践(?)と、非常に濃い3時間でした。

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