ちょっと前まで、漫画界のタブーと言われていたテーマがありました。
それは「音楽」と「お笑い」。
「音楽」は音が出せないマンガにおいて、表現が難しく、ヒットにつながらないと言われていました。しかしこのジンクスは、「NANA」、「BECK」、「のだめカンタービレ」によって覆されました。
そして、もう一つのタブーである「お笑い」。
お笑い/漫才のネタ、テンポ、間などの表現は困難で、これもヒット作品にならないと言われていました。
ですが、このジンクスも『べしゃり暮らし』によってなくなったと言えると思いました。
『べしゃり暮らし』のあらすじ
人を笑わせるためなら何でもやり、昼休みの校内放送で学校中の笑いを取る上妻 圭右。
才能がありながらも諸事情で大阪から引っ越してきた元・芸人の辻本 潤。
才能にあふれる2人がコンビを組み、プロの芸人を審査員に迎えた文化祭での初舞台でも大爆笑をとり、2人はプロの芸人の世界に進んでいく。
プロの芸人として、年に1度、一番面白い漫才コンビを決める「ニッポン漫才クラシック」(M-1のようなもの)に出場するも、グダグダでスベりまくり、あえなく1回戦で敗退。
プロの舞台で凹まされた上妻だったが、先輩芸人のアドバイスなどによって立ち直り、成長し、再び歩み始めた。(←コミックスでは今ココ)
『べしゃり暮らし』の主人公はつまらない!?
ちょっと話はそれますが、ずっと前にTVのトーク番組か何かで、誰かが以下のようにおっしゃられていました。
「吉本(の養成所)は、全国からクラス一のオモロいヤツが集まってくる所」
この「べしゃり暮らし」もその伏線があります。
だけどこの『べしゃり暮らし』は全然違う。このマンガがすごいのは、二人が天才ではないというところだ。だから劇中で話す二人の会話が面白くない!これはすごく衝撃だった。
学校内ではとても面白い。
だけど、いざ、プロの舞台で同じことをやると、なぜかスベる。
それなのに、テレビに出ているけど、ネタはつまらない芸人のネタで、なぜか他の観客は笑っている。
その「笑いの空気」についても、しっかりと表現されています。一般的に「KY」と評されるような「空気」より、はるかにシビアなものだと感じました。この「笑いの空気」の表現だけでも、「お笑い」がテーマのマンガはヒットしない、というジンクスが打ち破られたと思います。
この「べしゃり暮らし」は、当初、週間少年ジャンプで連載しており、(作者の体調不良などにより)一度連載が終わっていたがヤングジャンプで連載が再開されています。
私は週刊少年ジャンプの頃の話(3巻まで)はあくまで伏線であり、「べしゃり暮らし」が本当に面白いのは、ヤングジャンプで連載再開してから(4巻以降)だと思いました。2人がプロの舞台に挑戦していくのもヤングジャンプで連載再開後からです。
「お笑い」がテーマのマンガだけど、ビジネスにも使えるネタがいっぱいある
マンガの中のセリフには、誰の仕事にも通じるような名台詞も多くあります。
「初めからホームラン打てる奴はなんかいない
努力できる才能を持っている奴が天才」
「自分が楽しめてないのに、人を楽しませられるわけがない」
(上妻が小さい時に、父親(そば屋さん)がそばを仕込む所を観ながら)
上妻「こんながんばったってお客さんなんて
何も考えねーで食うぞ きっと」父親「まあな そりゃそうだ
どんな手間かけようが そんなのお客さんの知ったこっちゃねー
でもな お客さんは正直なんだ
心を込めて作ったら それは必ずお客さんに伝わるんだ」(中略)
父親「客はこうあるべきだなんて求めるもんじゃねーんだ
父ちゃんはお客さんのうまかったって
満足した幸せそうな笑顔が見れりゃいい
だからできる限り努力して心のこもったそばを出してーんだ それだけだ」
お笑いコンビの裏側がわかるだけでなく、プロの芸人として人を笑わせることの難しさを通じて、仕事にも生かせるネタが満載です。
コミックスもまだ5巻なので、一気に読めてしまえます。お笑いに興味のある方だけでなく、仕事のネタが欲しい方も、ぜひ一度、読んでほしいマンガです。