『42.195kmの科学 —マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」』を読みました

42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」

オリンピックをはじめ、世界中のマラソン競技で圧倒的な強さをみせる、
ケニアやエチオピアなどの東アフリカのランナーたち。

2012年7月16日に放送されたNHKスペシャル「ミラクルボディー」の
第3回『マラソン最強軍団』では、東アフリカのランナーたちの
強さの秘密を明らかにする内容が放送されました。

その時の番組の内容をもとに、番組では紹介しきれなかった
逸話やデータを盛り込まれてたのがこの本です。

マラソンの記録を決める3つの要因

まず、マラソンの記録を決める要因にはどんなものがあるか。

アメリカ・ミネソタ州にある全米屈指の病院・メイヨー・クリニックの
マイケル・ジョイナー博士は、マラソンの記録を左右する要因は、
主に以下の3つがあると言っています。

  1. 最大酸素摂取量(VO2max)
  2. 乳酸性作業閾値(乳酸閾値)(LT:Lactate Threshold)
  3. ランニング・エコノミー

「最大酸素摂取量」(VO2max)とは、
走っている時に体内に酸素を取り込んで消費できる量の最大値のこと。
自動車でいえばエンジンの性能、排気量のようなものです。

この最大酸素摂取量が大きいほど、走りながら多くの酸素を体内に
取り込めるので、より速く走れるようになります。

 
乳酸性作業閾値(乳酸閾値)(LT:Lactate Threshold)とは、
血中の乳酸濃度が急に上がり始める地点のこと。

乳酸は、走る時のエネルギーとなる糖が分解される時に生まれるもので、
乳酸が体内に溜まると、筋肉が収縮しづらくなり、「疲労で足が動かなくなる」と
感じてペースを維持できなくなる。

この「乳酸性作業閾値(LT)」が高いほど、
速いペースをより長く維持して走ることができるということになります。

 
そして、ランニング・エコノミーとは、
走っている時に、いかにエネルギーを使わず、効率的に走ることができるのか、
というもので、ここ数年、非常に重要視されている考え方です。

マラソンの常識を覆す「フォアフット」(つま先着地)

現在のマラソン世界記録保持者であるケニアのパトリック・マカウ選手の
走るフォームを調査する中で研究者が最も注目したのが「着地の仕方」でした。

マカウ選手の着地をハイスピードカメラで撮影した所、
つま先に近い部分で着地(フォアフット着地=前足部での着地)をしていた、
という大きな特徴が見つかりました。

フォアフット着地は、小学生の時などに運動会の徒競走を
裸足でやったことがある方は感覚としてつかみやすいと思います。

 
龍谷大学の長谷川裕教授らが2004年の札幌国際ハーフマラソンにおいて、
オリンピック選手を含む国際的なエリートランナーの着地の仕方を調査した所、
以下のような割合でした。

  • リアフット着地(かかと着地) – 約 74.9 %
  • ミッドフット着地(足の真ん中での着地) – 約 23.7 %
  • フォアフット着地(つま先着地) – 約 1.4 %

トップランナーにおいても、ほとんどのランナーがリアフット着地で、
ミッドフット着地は4人に1人、フォアフット着地は100人に1人。
フォアフット着地をするランナーはほとんどいなかったのです。

 
では、フォアフット着地とリアフット着地では、どのような違いがあるか。

フォアフット着地で走るマカウ選手と、
ロンドン・オリンピック日本代表の山本亮選手の走りを比較したところ、
(山本選手は足底の後部から中部にかけての着地の仕方)
着地をした瞬間に身体に受ける衝撃に大きな差がありました。

山本選手は着地の瞬間、体重(60kg)の2.2倍にあたる約132kg分もの衝撃を受けていた一方、
マカウ選手は体重(58kg)の1.6倍、約93kg分の衝撃しか受けていなかったのです。

一歩走るごとに約40kg分、受ける衝撃の差が生まれることが
疲労の蓄積の差につながっている、という大きな特徴がわかったのです。

また、着地の瞬間、膝を曲げて衝撃を受け止め、次の蹴り出しに備える動作の時に
発生するブレーキ作用を調査した所、山本選手はマカウ選手の1.2倍、
ブレーキがかかっていることがわかりました。

さらに、着地の時に大きな負担がかかる、ふくらはぎの筋肉において、
足に最も体重が乗った時に、全力で出せる筋力の何%を使っているか計測した所、
山本選手は全力で出せる筋力の81%を使っていたのに対し、
マカウ選手は30%も少ない48%しか使っていなかった、という結果が出ました。

つまり、着地の時の衝撃が少なく、ブレーキがかからず、
少ない筋力で走れるフォアフット着地の方が効率が良い、という結果となりました。

これをマラソンのタイムに当てはめると、4分近いタイムとなって現れるとのことです。

ランニング・エコノミーが高いフォアフット着地が今後の常識!?

「フォアフット着地」での走り方は、ランニング・エコノミーが高いというだけでなく、
足への衝撃が少ないということから、マラソンをやる人の間に広まりつつあります。

また、マラソンシューズのメーカーも従来のかかとが厚いシューズから、
「裸足感覚」のランニング・シューズが次々と発売されています。

フォアフット着地の走り方に変えたランナーのブログなどでの体験談を読むと

「脚が痛まなくなった」
「マラソンの翌日も疲れが残らなくなった」
「走るスピードが格段に上がったのに、疲れにくくなった」

などの感想が多く見られます。

ただ、フォアフット着地の走り方はふくらはぎやアキレス腱に負担がかかるため、
今までリアフット着地(かかと着地)で走っていた人は、フォアフット着地での
走り方に変えないと、ふくらはぎやアキレス腱を痛めますので、
正しいフォアフット着地での走り方を練習してて身につける必要があります。

フォアフット着地での走り方、裸足ランニングに関する書籍や、
マラソン・ランニング雑誌でも取り上げられていますし、
YouTubeでもフォアフット着地での走り方の動画が多くアップされていますので、
興味のある方は書籍を読み、動画を見てみてはいかがでしょうか。

 
ジョイナー博士は 
「早ければ2025年までに、東アフリカのランナーが2時間の記録を破る」という
発表もしています。

本の中では東アフリカの選手たちの強さのさらなる秘密や、
2時間の壁が破られるための大きな要因にも触れられています。

 
今後、ランニングも習慣づけたいと思っていた所で、
今後のマラソンの走り方の常識になるかもしれない「フォアフット着地」での
走り方を身につけ、長く健康的にマラソンを楽しみたくなりました。

» 第3回 マラソン最強軍団|ミラクルボディー|NHKスペシャル

42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」
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